領域概要

デジタル有機合成(実験科学と情報科学の異分野融合)

本領域の目的

日本の基幹産業の一翼を担う有機合成化学は、入手容易かつ安価な有機原料から、医薬、農薬、機能性材料などの超付加価値を有する高次複雑系分子を創成する、まさに現代の錬金術と言われるモノづくりを支える学術基盤であり、数多くのノーベル賞受賞が示すように、日本が世界を牽引してきた。現在、有機合成化学の分野にもデジタル化という大きな変革の波が押し寄せている。日本の有機合成化学が世界をリードし続けるためには、有機合成に破壊的イノベーションを起こす、デジタル有機合成(実験科学と情報科学の異分野融合)の基盤を世界に先んじて構築し、他国の追随を許さない地位を築くことが重要かつ急務である。本申請研究では、有機合成の多様性に対応した独自のデジタル化プラットフォームを構築するため、①反応条件最適化、②合成経路探索、③高次複雑系分子設計の3つの自動化システムを開発し、革新的な基礎反応の発掘や開発効率の超加速化(>10倍以上)を実証する。また、④バッチ反応からフロー反応への変換法の開発、そして⑤自律的な条件最適化ユニットを組み込んだ自動合成システムを構築し、多段階分子変換反応に展開することで、本プラットフォームの産業的実用性も示す。本研究領域がデジタル有機合成の核となり、産学官が一体となった一大ムーブメントを創り出すことで、日本のモノづくり力向上と化学産業の継続的発展の土台づくりへの貢献を目指す。日本学術会議の提言「化学・情報科学の融合による新化学創成に向けて」とも軌を一にする研究領域である。

本領域の内容

A01班〜A03班の3班体制で、人工知能(AI)を徹底活用した自動化法(分子構造自動設計、合成経路自動探索、反応条件自動最適化、バッチ→フロー自動変換、自律的自動合成システム)でムダを徹底排除し、革新反応・革新分子創出の超加速化を実現するとともに、自動化法開発の基盤となる、有機化学の機械学習に最適化した本領域独自のデータベース(DB)の構築を行う。

A01班(AI支援による反応制御の深化)

A02班(AI支援による合成手法の深化)

A03班(有機合成を支援するAI 手法の深化)

【A01班(反応制御の深化)が主として行う研究】

  • 本質的な選択性を逆転させる革新的な反応開発。
  • ①複数パラメータのパラレル最適化による革新的な基礎反応の発掘や開発効率の超加速化、②反応を制御する主制御因子の同定(多変数解析の自動化、深層学習の活用)、③反応機構(量子化学計算で解析困難な2 kcal/mol以下の選択性の発現機構など)の理解と予測。
  • 多様な構造を生成物とする多成分連続反応を開発。
  • 開発した反応のフロー反応化(バッチ反応のフロー反応への変換)。
  • フロー反応に対応した「反応コードモジュール」の開発。
  • 設計された分子、触媒、反応、合成経路を検証し、実データを提供。

【A02班(合成手法の深化)が主として行う研究】

  • フロー反応に用いるデバイスの深化を基盤とする自動合成システムの開発。
  • フロー反応とインライン分析、有機反応条件探索用ロボットなどを活用し、実験者の環境・技術に依存することなく全実験データを迅速に収集するシステムを構築。
  • 化学工学的な視点に立った、①フロー合成プロセスの設計・計測・制御、②自動化のためのプロセスデータ解析・制御システムの開発、③バッチ反応のフロー反応への変換法を開発。
  • バッチ反応→反応コードモジュール→フロー反応→自律的な条件最適化→自動合成プロセス(多段階分子変換)を構築。

【A03班(AI手法の深化)が主として行う研究】

  • ①反応条件最適化、②合成経路探索、③分子設計の3つの自動化システムを開発し、A01班とA02班の研究を支援。
  • 有機合成の多様性(分子構造・変換反応の多様さ)に対応した分子・反応の表現法(記述子)を開発。
  • 有機合成の多様性に対応できる機械学習システムの構築。
  • 個々の反応に即したパラメータ(アルゴリズム)の作成(オーダーメイド)と、共通性の高いパラメータ(アルゴリズム)の作成(レディ・メイド)。
  • 分子の機能予測する分子設計システムを構築し、医薬品や機能性材料などの開発に応用(A01班とA02班は実験によって検証)。
  • 反応経路探索システムを開発。化学選択性などの領域独自の情報を活用することで、保護基フリーの短工程合成経路探索を可能とするとともに、個々の基質に適応した反応条件を提示するシステムに昇華。

期待される成果と意義

本領域研究の推進は、新反応・新原理発見の超加速や革新分子の迅速な創出につながるだけでなく、有機合成の「研究環境の変革」をもたらすものである。これまで、膨大な時間・労力・コストをかけて行われていた有機合成の研究環境は、人工知能(AI)を徹底活用した自動化法の開発でムダを徹底排除することで、省労力、短時間、低コスト型の研究環境へと変化し、人間知能はより創造的な作業に集中できるようになると期待される。これは、withコロナ、afterコロナの研究環境においても、実験だけに頼った脆弱な研究環境から、いかなる状況でも研究を継続できる「デジタル有機合成」研究環境への強化へとつながるものと考えている。

本異分野融合研究を、5年間の領域研究期間だけではなく、継続的に発展させて行くために、独自の「デジタル有機合成プラットフォーム(PF)」の構築を計画している。本PFは領域研究終了後に公開し、広く融合領域研究に利用できる体制を作っていきたいと考えており、データベースの保守や認証体制についても準備を進めている。

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