ご挨拶

「デジタル有機合成」〜研究環境・研究マインドの変革〜

有機合成(実験科学)とデータサイエンス(情報科学)の異分野融合によって、有機合成に破壊的イノベーションを起こすことを目的とする、新たな学術変革領域研究「デジタル有機合成」が2021年9月に発足しました。

日本の基幹産業の一翼を担う有機合成化学は、入手容易かつ安価な有機原料から、医薬、農薬、機能性材料などの超付加価値を有する高次複雑系分子を創成する、まさに現代の錬金術と言われるモノづくりを支える学術基盤であり、日本が世界を牽引してきました。しかし、世界的な競争激化や社会状況の急激な変化の中で、日本が世界をリードし続けるためには、これまでのような、多大な努力と長時間労働ありきの研究アプローチには限界があり、有機合成化学の変革が必須です。

これまで私たちは、膨大な数の実験と解析を積み重ねる帰納的アプローチで研究を行ってきました。また近年では、計算科学などの演繹的アプローチで開発効率の向上に努めてきました。一方、機械学習などの情報科学によるアプローチは、実験科学と同じ帰納的アプローチであり、極めて利用価値が高いと期待されるものの、有機化学への利用は限定的で、いまだ未発達です。これは、機械学習に必要なデータの量と質に関わる問題の他に、有機合成の多様性に、現在の機械学習の手法が対応できていないためです。

そこで本領域研究は、有機合成の多様性に対応した独自のデジタル化プラットフォーム(PF)の構築を通じ、マインドシフトをともなう有機合成の変革を行います。本領域研究はグループ研究を最大限に活かしたもので、従来のAI研究とは一線を画すものです。具体的には、人工知能(AI)を徹底活用した自動化法(分子構造自動設計、合成経路自動探索、反応条件自動最適化、バッチ→フロー自動変換、自律的自動合成システム)でムダを徹底排除するとともに、自動化法開発の基盤となる有機化学の機械学習に最適化した本領域独自のデータベース(DB)の構築を行います。本領域研究の推進により、革新反応・革新分子創出の超加速化を実現し、将来の未到領域の開拓に繋げていきたいと考えています。

大嶋孝志

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