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【レクチャーシップアワード2024】 ドイツ・オランダの4大学で講演してー太田英介

「次は必ず出す」。第1回レクチャーシップアワードから一年、念願の申請をし、幸いにも第2回に採択していただいた。デジタル有機合成での募集を契機に参加したSICC-11で面識を得た研究者を軸に調整し、RWTHアーヘン(ホスト:Daniele Leonori教授)、ボン大学(ホスト:Andreas Gansauer教授)、アムステルダム大学(ホスト:Timothy Noël教授)、ミュンスター大学(ホスト:Armido Studer教授)の4大学を巡った。なお、Leonori教授の仲介によりボン大学の訪問が実現したことを、感謝と共に記しておく。

講演題目は「Altering Selectivity in Photocatalytic Bond Cleavage」。早稲田大学着任後に推進してきた可視光駆動の結合開裂を中心に、渡欧直前に報告したピロリジンのC–N結合開裂や未発表データを含めて構成した。国際学会で英語講演の経験はあるものの、海外大学での講演は初。しかも、筆者の身に余る錚々たる教授陣を前にしての講演である。緊張と高揚を抱え、冬の欧州へ向かった。

最初の訪問はRWTHアーヘン。ドイツ鉄道の遅延を懸念し、先方に手配していただいたタクシーで移動。講演前夜はLeonori研のGiovanni、Thomas、Linda、留学中の笠間健吾さん(富山大学)らにクリスマスマーケットへ連れて行っていただいた。大聖堂と旧市庁舎を望む広場の屋台でグリューワインを飲み、体を温めてからディナーへ。研究室の日常などを聞いた。翌朝、Giovanniに迎えられ、群青色の空の下、朝のアーヘンを歩いて化学科へ。重厚な外観の建物に入り、まずCarsten Bolm教授とのディスカッション。メカノケミストリーを用いた電子移動の話が興味深かった。続いてFrédéric W. Patureau教授から、カルバゾールのカップリングからフェノチアジン化学への展開を解説していただいた。居室を後にする際、化学科のゲストブックに名を記すよう促された。前頁には Hashmi教授、他にもRitter教授や三浦雅博教授のサインが目に飛び込んできた。この本にサインする重圧と今回得た機会の価値を噛み締め、身が引き締まった。Leonori研のメンバーとのディスカッションは、ニトロアレーンの光反応が中心。Danieleが紅茶を振る舞ってくれ、和やかに始まったが、学生の説明の不備を見逃さない姿に、教育者としての矜持を見た。その後は講演。Danieleとは数ヶ月前に東京観光をしており、落ち着いて臨むことができた。講演後は学生が質問に来てくれ、Bolm教授の言葉にも励まされた。昼食では、Leonori教授、Patureau教授、若手のFlorian F. Mulks助教授から学科運営やドイツのアカデミア事情をうかがった。午後はMulks助教授とのジカチオン化学の議論から大いに刺激を受けた。日本とは状況が異なるが、研究開始時の苦悩に深く共感した。夕刻、Leonori研に戻り、別のメンバーからアミンボラン錯体を用いたC–N結合開裂の成果を紹介いただいた。やがて、筆者の講演内容に話題が移り、講演会でも質問をくれたZhang(後述のGansauer研出身)のアイディアを発端に、議論は白熱した。新しい反応のアイディアも生まれ、有意義なディスカッションができた。夜はGiovanni、Thiagoと市内で会食。化学科ではLeonori研の”消灯時間”が最も遅く、研究棟へは365日アクセス出来るとのこと。ビックラボの驚異的な成果は、彼らのひたむきな努力に支えられていると感じた。

翌日、ボン大学へ列車で移動した。車両の扉が開いた瞬間、想像よりもはるかに大柄なGansauer教授が眼前に立っていた。紙上でしか知らなかった憧れの研究者に突然対面した驚きも重なり、心臓が止まりそうになった。慌てながら、ホームで出迎えていただいた御礼と挨拶を述べ、ビアバーへ向かった。昼食後、同教授の案内でミンスター教会、HARIBO本店、旧宮殿など市中を散策。歴史的建造物が大学施設として活用され、キャンパスが街に溶け込む学園都市の趣が漂っていた。Kekulé-Institute入口にあるケクレ先生の銅像に挨拶した後、Gansauer教授の居室に荷物を置いて、すぐ講演へ。その後、2021年に着任したAla Bunescu助教授とディスカッション。鉄触媒による脱炭酸反応に関してTEMPOの興味深い役割を解説していただいた。Gansauer教授の居室に戻ると、筆者の発表内容に即した具体的な助言を多数受けた。特にチタノセンとジルコノセンの反応性の差異に関しては、同教授の研究を交えながらご教授していただいた。自身の研究の出発点である同教授の論文は読み込んでおり、筆者も身を乗り出して議論した。チタノセン研究の大家と贅沢かつエキサイティングな議論はまさに至福の時間であった。話は共同研究の進め方、学生との向き合い方にまで及び、初対面とは思えない懐の深さに感銘を受けた。夕食は行きつけの博物館併設レストランで、チタノセン研究の原点や教育観を伺いながら地ビールとドイツ料理を楽しんだ。近年は国際会議に出られていない同教授と腰を据えて語り合えたのは貴重であった。

翌週、国境を越えアムステルダムへ。美しいレンガ造りの中央駅と運河に心を奪われた。翌日にアムステルダム大学を訪問。Timothy Noël教授に出迎えていただき、まずラボツアー。自作装置が随所に並び、ラボオートメーションのプラットフォームや光反応装置を説明していただいた。続いて、2024年着任のBettina Baumgartner助教授とは、分光・MOFの研究背景を活かした反応開発について議論した。キャンパス近くでBas de Bruin教授も交え昼食ののち講演。滞在で耳が慣れたこともあり、のびのびと話せた。その後のディスカッションでは、Wybren Jan Buma教授から分光測定の具体的なアドバイス、Jan van Maarseveen教授からはペプチド型カテナン合成の着想に至る経緯をうかがった。博士課程のRensは光触媒として機能するMOFの分子設計について説明してくれた。夜は市街地でTim、博士課程のCassey、そしてパートナーのRyanと会食。ハーリングに舌鼓を打ち、日本の映画・漫画談義で盛り上がった。

最後の地はミュンスター大学。サバティカルで滞在した山口先生から話を伺っており、念願の訪問だった。講演前夜はStuder研の博士学生のTill、Nicoとディナー。都市ごとに少しずつ異なる表情を見せるクリスマスマーケットも興味深かった。市内観光では、聖ランベルティ教会など宗教戦争の歴史を物語る建築物が美しく照らされる様に、この街が歩んだ「光と影」を感じた。翌朝、大学に向かうと、IRTG(日独共同大学院プログラム)で用意された控え室に通された。午前はTill、Nico、上田助教(名古屋大学)、Martinと議論し、その後に学内の食堂でIRTGの学生たちと昼食。午後はAugustinus、Malte、遠山くん(名古屋大学)の順に議論を重ね、その後に講演。教室脇にある流しやドラフトは、かつて授業で実験を見せていた名残だという。講演を終えたのちにBalanna、Shu-minと意見交換を行った。ディスカッションでは論文発表直前・直後の研究秘話、筆者の研究への質問、キャリアや研究方針の相談まで、十人十色であった。その後、Tillの案内でArmido研のラボツアー、Studer教授とのディスカッションへと続いた。その後、教授の愛車でお気に入りのBBQ店へ向かい、ドイツで初めてステーキを堪能。二次会はワインバーで地元のワインを楽しんだ。

今回4大学を巡る講演の機会をいただき、対面での議論でしか生まれないアイディアや、講演旅行でしか築けない人の繋がりの大切さを再認識した。いずれも研究者にとって何ものにも代えがたい。第一線の教授陣と議論し、教えを請い、若手の研究者と交流を深める最高の時間であった。今回の経験は、筆者の研究者人生の転機になったと断言できる。日本の若手研究者のプレゼンス向上に直結するこのような活動を支えてくださっている皆様に感謝するとともに、同様の機会がより多くの方に広がっていくことを願っている。

最後に、クリスマス休暇直前の時期に多忙を極める中、温かく迎えてくださった各大学のホストの先生方に深く感謝申し上げます。本講演旅行は共同研究者である学生の尽力に支えられ実現したものであり、心より感謝します。また、採択の機会を賜りました九州大学 領域代表 大嶋孝志先生、レクチャーシップ担当の早稲田大学 山口潤一郎先生、事務手続きをご支援いただいた大嶋研究室秘書 有村慎子様に厚く御礼申し上げます。いただいたご厚情を糧に、より良い研究でお返ししてまいります。

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