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【国際学会参加助成205】Pacifichem 2025に参加して

大阪大学 上田瑛太郎 (A01劒グループ)

学会名:Pacifichem 2025
開催日程:2025/12/14-12/20
開催場所:Honolulu, Hawaii, USA

発表内容:Redox Property and Photo-Responsive Character of a-Diimine-Ligated Bis(imido) Molybdenum Complexes (前周期遷移金属錯体に関するシンポジウムにてポスター発表)

Pacifichem 2025(正式名称:The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies 2025)は、5年に一度ホノルルにて開催される国際化学会議であり、アメリカ化学会(ACS)、日本化学会(CSJ)、中国化学会(CCS)などの太平洋沿岸諸国の化学会が共同で主催する、大規模で伝統的な国際学会である。今回、光栄にも本学会に参加する機会を得、各国研究者による講演の聴講、およびポスターセッションを通じた英語での研究発表を行った。本学会は、ヒルトンハワイアンヴィレッジをはじめとするワイキキ周辺の主要ホテルを会場として開催された。リゾート地での開催という特色もあり、多くの参加者がアロハシャツ姿で会場を訪れ、コーヒーを片手に活発な化学の議論をしている様子は、日本の学会ではあまり見られない印象的な光景であった。研究内容のみならず、海外研究者の研究に対する姿勢や独特のメンタリティーに触れることができ、多くの刺激を受けた密度の濃い5日間であった。

本学会の講演は、分野ごとに細分化された多数のシンポジウムにおいて行われた。とにかくシンポジウムの数が多く、リサーチが大変であったが、特設のスマホアプリを使って情報を調べ、自身の研究分野や関心のある分野の講演を中心に聴講した。それぞれのシンポジウムを訪れるたびに、その会場にいる参加者全員が共通の分野に関心をもって集まっていることに楽しさと喜びを感じた。

特に印象に残っているのは、3日目午前と4日目午前に訪れたBeyond Exogenous: The Direct Visible Light Activation Of Transition Metal Catalystsのシンポジウムである。私は金属錯体に対する光照射に関する研究を行っているため、その関連で聴講することにした。研究内容の面では、コロンビア大学のT. Rovis 教授による、銅錯体への光照射を駆動力とした分子変換が大変興味深かった。美しい錯体設計のアイデアの連続であり、その発想はどこから生まれるのかと強く驚かされた。また、金錯体への光照射に関する講演を行っていたハイデルベルク大学のA. S. K. Hashmi教授の発表も印象的であった。講演のまとめとして「I love gold.」という一文のみが大きく示されたスライドが用いられており、日本と異なる研究者のメンタリティーや表現の仕方に新鮮な驚きを感じた。

さらに、1日目に参加したDevelopment of New Reactions And Technologies Adaptable To Process Chemistryのシンポジウムでは、有機合成反応の条件最適化に関する最新の考え方を深く学ぶことができた。特に、九州大学の大嶋先生の講演が印象的であった。フロー系反応において、反応条件の各パラメータを丁寧に整理し、それぞれを最適化することで収率が向上していく様子は、従来の試行錯誤を繰り返す最適化とは異なる、論理的で効率的な手法であると感じた。

他にも、前周期遷移金属に関するシンポジウムや、レドックス活性配位子の設計、有機光触媒の応用に関するシンポジウムを聴講した。2021年にノーベル化学賞を受賞されたD. W. C. Macmillan教授の講演を聞けなかった点は残念であったが、学びの多い時間を過ごすことができた。

ポスター発表では、他分野の学生や教員が多く来訪し、多分野にわたる本学会ならではの意見交換を行うことができた。錯体化学や有機合成化学に限らず、物理化学や計算化学的観点からも様々な意見を頂き、自身の研究を新たな視点から捉え直す機会となった。また、同シンポジウムにおいてTi錯体の光照射反応に関する研究発表を行っていた Schafer, L. L. 研の学生と、実験の細部に至るまで英語で深い議論を行った。光照射の実験に関する具体的な悩みなど、共通する課題を共有できたことで、国際的な研究交流の意義を強く実感した。さらに、セッション終盤には Schafer 教授本人も私のポスターの前に訪れ、研究内容に対して直接助言を頂くことができた。非常に貴重な経験であり、今後の研究への大きな刺激となった。

最後になりますが、本国際学会への参加は、今後の研究活動のみならず、人生においても有意義な経験となりました。このような貴重な機会を与えてくださったデジタル有機合成国際学会参加助成事業に対し、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

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