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大嶋(A01)グループの研究「光学活性なα-アミノホスホン酸類の環境に優しい新規合成法を開発」がプレスリリースされました

光学活性なα-アミノホスホン酸類の環境に優しい新規合成法を開発
―医薬品や生物活性物質の合成素子としての活用に期待―

ポイント

  1. α-アミノホスホン酸(※1)は、α-アミノ酸の生物学的等価体(※2)として医薬品などの生物活性物質の開発に有用であることが知られており、その効率的な合成法の開発が望まれていました。
  2. 今回、有機分子触媒(※3)を用いることで、不要な廃棄物を生成しない、光学活性(※4)なα-アミノホスホン酸類の直接合成法を世界で初めて実現しました。
  3. 効率的な合成が可能となった光学活性なα-アミノホスホン酸類が、医薬品などの生物活性物質開発における合成素子として活用されることが期待されます。

概要

α-アミノホスホン酸は、α-アミノ酸の生物学的等価体であり、生物活性物質中にも見られる化合物です。また、α-アミノホスホン酸は、リン原子の四面体構造からペプチド加水分解の遷移状態類縁体としても知られており、ペプチド加水分解酵素への耐性を示す有用な合成素子となります。しかし、これまでの光学活性なα-アミノホスホン酸の合成法では、窒素原子があらかじめ保護された原料が必要であり、不要な保護基の着脱が必要となることから、環境調和性の点で改善の余地がありました。

九州大学大学院薬学研究院の大嶋孝志教授、森本浩之講師、山田昂輝大学院生、近藤優太大学院生らの研究グループは、2021年にノーベル化学賞を受賞した研究として知られている有機分子触媒の1つを用いることで、窒素原子上に保護基を持たない原料に対する反応が効率的に進行することを見出し、不要な廃棄物を出さない光学活性なα-アミノホスホン酸類の直接合成法の開発に世界で初めて成功しました。本手法は、触媒添加量の低減や、合成中間体を単離せずに次の反応に用いる「ワンポット反応」への適用が可能であり、持続可能な開発目標(SDGs)に対応した、より環境調和性に優れた合成を実現しました。本手法を応用することで、光学活性なα-アミノホスホン酸を活用した医薬品合成の進展が期待されます。

本研究成果は、アメリカ化学会が出版する国際誌「ACS Catalysis」のオンライン版にて2023年2月17日(金)(日本時間)に掲載されました。

【研究の背景と経緯】

α-アミノホスホン酸は、α-アミノ酸の生物学的等価体であり、生物活性物質中にも見られる化合物です。また、α-アミノホスホン酸は、リン原子の四面体構造からペプチド加水分解の遷移状態類縁体としても知られており、ペプチド加水分解酵素への耐性を示す有用な合成素子となります。α-アミノホスホン酸は、α-アミノ酸と同様に左手と右手の関係にある一対の分子が存在し、それらの片方を選択的に合成する手法が必要とされています。そのため、これまで様々な光学活性なα-アミノホスホン酸の合成法が開発されてきました。しかし、これまでの光学活性なα-アミノホスホン酸の合成法では、窒素原子があらかじめ保護された原料が用いられており、不要な保護基の着脱が必要となることから、環境調和性の点で改善の余地がありました。

【研究の内容と成果】

本研究では、窒素原子上に保護基を持たない原料を用いることで、不要な廃棄物を出さない光学活性なα-アミノホスホン酸類の直接合成法の開発に世界で初めて成功しました。本手法では、適切な有機分子触媒を用いることで、保護基を持たない原料が効率的に活性化され、反応が円滑に進行することがわかりました。これにより、不要な保護基の着脱の工程が削減でき、合成の効率化が実現できました。

また、触媒量の低減化や、中間体を単離しないで次の反応にそのまま用いるワンポット反応への応用も可能でした。一般に単離精製の工程は多量の有機溶媒を用いるなど廃棄物増加の一因となりうるため、ワンポット反応によってより環境に配慮したα-アミノホスホン酸類の合成を達成できました。

得られたα-アミノホスホン酸類は、脱保護工程を経ることなく1工程で直接誘導体へと変換可能でした。これにより、ペプチドや無保護のα-アミノホスホン酸などが合成可能となり、本手法の生成物が様々な誘導体合成に活用できることを実証できました。

【今後の展開】

本研究により、様々な光学活性なα-アミノホスホン酸類を、不要な廃棄物を出さずに効率的に供給可能となりました。これにより、従来のα-アミノホスホン酸を利用した医薬品開発に新たな可能性を提案できました。また、環境配慮型の合成手法でもあることから、昨今重要な課題とされている持続可能な発展(SDGs)への貢献も期待されます。

【用語解説】

(※1)α-アミノホスホン酸
α-アミノ酸のカルボン酸(炭素原子)がホスホン酸(リン原子)に置き換わった化合物。α-アミノ酸の類縁体として重要な化合物の1つ。

(※2)生物学的等価体
医薬品などの生物活性分子において、生物学的に同じ役割を果たす他の部分構造。ホスホン酸は、カルボン酸の生物学的等価体として機能する。

(※3)有機分子触媒
金属元素を含まない、有機分子からなる触媒。2021年にノーベル化学賞を受賞したことでも知られる。日本の貢献が大きい研究分野の1つ。

(※4)光学活性
偏光面を回転させる性質のこと。左手と右手の関係にある一対の分子のうち、片方がもう片方よりも過剰にある場合、偏光面を回転させることが知られている。

【謝辞】

本研究はJSPS科研費(JP21A204, JP21H05207, JP21H05208, JP17H03972, JP21H02607, JP18K06581, JP21K06477)、日本医療研究開発機構(AMED)(JP21am0101091, JP22ama121031)、武田科学振興財団、公益信託医用薬物研究奨励富岳基金などの助成を受けたものです。

【論文情報】

掲載誌:ACS Catalysis
タイトル:Organocatalytic Direct Enantioselective Hydrophosphonylation of N-Unsubstituted Ketimines for the Synthesis of α-Aminophosphonates
著者名:Koki Yamada,‡ Yuta Kondo,‡ Akihiko Kitamura, Tetsuya Kadota, Hiroyuki Morimoto, and Takashi Ohshima(‡:contributed equally)
DOI:10.1021/acscatal.2c05953

詳細はこちら:九州大学プレスリリース

 

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