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【レクチャーシップアワード2023】フランス・イギリスの4大学で講演–武藤慶

「これ出したいなぁ。」そんなことを思っていた矢先「これ出していいよ」と山口先生にも許可(?)いただき、幸い採用していただいた。ある程度まとまった成果はあったが、無名な自分が受けていれてもらえるのか、不安を抱えながら友人が複数人いるという理由で欧州を選択し、訪問したことのない仏国と英国に決めた。当初は仏国1、英国2の合計3箇所を予定していたが、先方の好意から仏国で一つ追加でき、合計4大学訪問させてもらった。

最初は仏国Ecole Polytechniqueである(12月8日)。Bastien Nay教授にホストしていただいた。面識はなかったが、次に訪問予定のパリサクレー大学Christophe准教授に紹介いただき、訪問が実現した。筆者らが最近合成した天然物に関する総説を執筆していたことから一方的に知っていた天然物合成屋である。仏国のストライキの多い電車事情もあり(実際に到着初日から遭遇した)ホテルまで迎えに来ていただいた。Basitenとのディスカッションから始まった。独自の方法論を用いた天然物合成、さらにはバイオロジーまで最新の成果を紹介いただいた。その後、Bastienと若手のSebastien Prevost博士、Samir Zard教授と食事を取り、昼間からワインを嗜んだ。仏国では普通らしく、日本ではビールも学内で売っていないことを伝えると大変驚かれた。ワイン=水というのは真実なようである。SebastienとYvan Six先生とディスカッションした後、講演した。自身の英語講演の準備不足を若干感じつつも複数質問いただき、自己評価としては及第点だろうか(甘い?)。その後、Zard教授と1時間ディスカッションした。すでに定年を迎えているが、ザンテートを用いたラジカル化学を熱く紹介いただいた。ディスカッション後に、‘Your chemistry is interesting and very unusual’と言っていただき、unusual= 独自と勝手に捉え自信になった。

2つ目はパリサクレー大学だった(12月11日)。まず、ホストのChristophe Bour准教授に建ったばかりの巨大なキャンパスを紹介してもらった。建物の入口は空港と見紛うほど壮大だった。昼食前に講演したが、休日に初日の自己反省をしたおかげか緊張もせず楽しく話せた。その後ChristopheとAlix博士と昼食。やはりワイン。ランチ後、Kagan教授のご自宅の前を通りつつキャンパスに戻り、Guillaume Vincent教授とディスカッションした。脱芳香族化を駆使したインドールアルカロイドの合成で最近多くの成果を出している。挑戦的な合成戦略とそれを実現できた妙を聞き、盛り上がった。その後、Christopheとディスカッションした。コロナ禍直前に早稲田大学で講演してもらったが、それとは毛色の異なるルイス酸試薬を楽しんだ。Alix博士とのディスカッションの後、Christopheの学生が話したいと申し出てくれ、それを終えてパリサクレー大学を後にした。

パリから次の訪問地マンチェスター大学へ飛んだ。到着当日はホストのIgor Larrosa教授の学生にランチと街案内してもらった後、Igorと夕食を楽しんだ。12月13日に大学を訪問した。まずIgorの学生に未発表の研究成果をプレゼンしてもらった。こんな研究も始めたのかと驚かされる内容であり、チャレンジし続けるLarrosa研に感服した。その後着任して間もないAaron Trowbridge助教授とディスカッションした。現在進行中の光を使った興味深い酸化反応を紹介いただいた。その後、AaronとTurner研のポスドクと昼食を伴にした。二人ともGaunt研出身であり、知人が複数人いたため彼らの話で盛り上がった。その後、Proctor教授とのSmI2化学のディスカッションを楽しんだ後、講演した。メカニズムの質問が大量であり、答えに苦しむ点もあったものの無事終了。Micheal Greaney教授、速度論VTNA法で著名なJordi Bures教授とディスカッションした。Jordiには途中でホワイトボードを使いながら速度論を話していただき、授業のようであった。Igor、Jordiとディナーを楽しんだ。二人共スペイン出身なためバスク料理の食べられる店だった。Jordiは近いうちにICIQへ移ることが内定しているそうだ。

マンチェスターから最後の訪問先サウサンプトンへ電車で移動した。IgorもJordiも言っていたが、イギリスの電車は高額な割に遅く、確かに疲労が溜まった。サウサンプトンはよき田舎という感じ。サウサンプトン大のホストは日本にも在籍していた若手Gregory Perry講師だ。彼の栄転時に交わした約束「次はサウサンプトンで会う」を叶えた。12月15日、大学に着いてまず講演開始。Simon Coles教授、Richard Brown教授とランチを共にし、Brown教授、Richard Whitby教授、Sam Thompson教授、Greg、David Harrowven教授とディスカッションした。Thompson教授はパーキンソン病やアルツハイマーに効く低分子研究をしており、筆者も最近関連する論文を出していたので盛り上がった。タイタニック号が出発したという港付近のレストランでGreg、Davidと夕食を取り、全行程を終えた。

異国の地で自身の化学を名刺に人と会い、輪をつなげる。人生に一度あるかという機会を得ることができ感無量である。カジュアルで気さくな人ばかりであった。クリスマスシーズン直前で、忙しない雰囲気が漂う中受け入れていただき、感謝しかない。
最後に、本申請を受け入れてくださった本学術変革領域代表大嶋孝志先生(九大)および山口潤一郎先生(早大)に深謝いたします。また、大嶋研の有村秘書の事務手続きのサポートなくしては実現できなかったものであり、心より御礼申し上げます。本講演内容は学生の努力の賜物であり、彼らの比類なき努力と能力に感謝し筆を置かせていただきます。

(早稲田大学・准教授 A01班 山口G 武藤慶)

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