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椴山(A02)グループの研究成果「無機物のハロゲンと有機物を組み合わせて触媒を創り出すことに成功」がプレスリリースされました

無機物のハロゲンと有機物を組み合わせて触媒を創り出すことに成功(椴山儀恵グループら)

発表のポイント

◆無機物のハロゲンと有機物の配位子からなる非金属錯体触媒を世界で初めて開発した。
◆既存の触媒よりも圧倒的に少ない触媒量で、有機合成反応を完結することに成功した。
◆分子性触媒の新たな設計指針を示した。

概要

分子科学研究所の大石峻也院生、藤波武博士研究員(当時)、桝井悠院生(当時)、鈴木敏泰博士、加藤雅之院生、大塚尚哉助教、椴山儀恵准教授の研究グループは、無機物のハロゲンと有機物の配位子を組み合わせることで、非常に高い活性を示す非金属錯体触媒の開発に世界で初めて成功しました。
この成果は、国際学術誌『iScience』の10月21日付(日本時間・オンライン版)に掲載されました。

研究の背景

環境調和性に優れた分子性触媒(1)の開発は、機能性物質を生み出す有機合成において必要不可欠な研究課題です。金属に有機配位子を組み合わせた有機金属触媒(2)や、金属を含まず炭素・水素・酸素・窒素などの元素からなる有機触媒(3)など、開発研究が盛んに進められています。2001年ノーベル化学賞「不斉触媒による水素化および酸化反応の研究」、2010年ノーベル化学賞「有機合成におけるパラジウム触媒クロスカップリング」、2021年ノーベル化学賞「不斉有機触媒の開発」は、分子性触媒研究の代表的な例です。一方、無機物であるヨウ素や臭素は、触媒としての潜在性が認められていましたが、分子性触媒としてデザインし有機合成反応に応用する試みは、これまで検討されていませんでした。

研究の成果

今回、椴山准教授らの研究グループは、分子性触媒の研究分野で十分に活用されていなかったハロゲンを有機配位子と組み合わせることで、強力な触媒活性を有する分子性触媒を開発しました。具体的には、一価ハロゲンであるハロニウムX+ (I+, Br+)に有機物である窒素系配位子を組み合わせて、非金属錯体触媒[N···X···N]Yをデザインしました。[N···X···N]Yは、ハロニウム(4)、有機配位子、対アニオンの組み合わせに自由度をもちます。そこで、触媒の高活性化に向けて、様々な組み合わせの[N···X···N]Yを合成しました。合成した[N···X···N]Yを含窒素化合物の脱芳香環化反応に適用したところ、[N···X···N]Yが非常に強力な触媒活性を示すことを見出しました。また、種々の対照実験や分光分析、量子化学計算を行い、ハロニウムの形成する三中心四電子結合(5)が反応駆動の鍵となっていることを明らかにしました。

今後の展開・この研究の社会的意義

本研究により、ハロニウム、有機配位子、対アニオンを組み合わせることで、非常に高い触媒活性を実現できることが分かりました。開発した触媒は、活性中心のハロニウム、有機配位子、対アニオンを容易に変更可能です。新たな分子性触媒として「非金属錯体触媒」の設計指針を提案するものであり、多彩な触媒反応の実現が期待されます。今後の環境調和型触媒の設計に有用な基礎的知見を与えるとともに、医薬品や機能性材料などの有用物質を迅速に供給する分子生産技術の発展に貢献する成果と考えられます。

用語解説

1) 分子性触媒
構造、組成が制御された分子として構築された触媒作用を示す化合物のこと。
2) 有機金属触媒
金属元素に有機配位子が組み合わされることで、触媒としての機能を有する化合物のこと。
3) 有機触媒
金属元素を含まず、炭素・水素・窒素・酸素・硫黄・リンなどの典型元素から構成される触媒作用を有する化合物のこと。
4) ハロニウム
一価のハロゲン原子。本論文では特にヨードニウム(I+)やブロモニウム(Br+)を指す。
5) 三中心四電子結合
電子不足な原子を中心原子とする電子豊富な2原子への結合のこと。

論文情報

掲載誌:iScience
論文タイトル:“Three-center-four-electron halogen bond enables non-metallic complex catalysis for Mukaiyama–Mannich-type reaction”
(「三中心四電子ハロゲン結合が向山マンニッヒ型反応に対する非金属錯体触媒系を可能にする」)
著者:Shunya Oishi, Takeshi Fujinami, Yu Masui, Toshiyasu Suzuki, Masayuki Kato, Naoya Ohtsuka, Norie Momiyama
掲載日:2022年10月21日(オンライン公開)
DOI:doi.org/10.1016/j.isci.2022.105220

研究グループ

分子科学研究所

研究サポート

本研究は、アステラス病態代謝研究会 研究助成、鈴木謙三記念医科学応用研究財団 研究助成、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業ACCELプロジェクト、科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A) デジタル有機合成(21H05218)、名古屋大学物質科学国際研究センター化学測定機器室、HPCシステムズ、分子科学研究所機器センター等の支援を受けて実施されました。

詳細はこちら:分子科学研究所 お知らせ

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