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【レクチャーシップアワード2025】欧州4大学訪問ー髙山亜紀

この度、第2回デジタル有機合成レクチャーシップアワードを受賞し、海外で招待講演の機会をいただいた。様々な方に予定調整を助けていただき、以下の4つの大学を訪問することができた。
1つ目の訪問先Geneva大学は、3年前に留学していた場所であり、恩師の Winssinger教授にホストをしていただいた。Winssinger研のアップデート(HPLC型のフロー式ペプチド固相合成装置、博士学生の研究の最新状況など)を見せていただき、3年という月日の長さを感じた。Mazet教授からはDKRによるキラルなpillar[5]arenes合成を紹介いただき、Hoogendoorn教授には生物と化学のバランスに関する彼女の意見を聞くことができた。計算化学が専門のPoblador-Bahamonde講師は講演直後にお話ししたため、いくつか質問をいただけた。Rickha助教には、サドル型分子の会合について分子の幾何学的な捉え方と共に紹介していただいた。有機化学を基盤としながら、教授陣の研究対象は多様であり、大学の個性を感じた。ディスカッション中、「あなたなんかみたことあると思ってた」と言われ、留学後に、初めて教授陣とお話しできてとてもうれしかった。講演は、正直なところあまり上手くいったとは言えない。講演後に、Winssinger教授から「キーポイントだけを話し、話しすぎるな」と講演のアドバイスをいただき、次の講演に備えた。彼には、日本で実施中の創薬研究に関する相談にものっていただき、最後は激励もいただいた。大変忙しい中でありがたいと感じると共に、教授の精神と肉体のタフさを目の当たりにした。ランチは、Winssinger研のスタッフであるSofia准教授とPatrick, PhDの学生とフランス料理をいただき、ディナーは、Winssinger教授、Rickha助教にチーズフォンデュをご馳走になった。
2つ目の訪問先のCardiff 大学は、ボスの高須教授からご紹介いただいたWirth教授にホストしていただいた。Wirth 教授には、HPCCCシステムを活用した酵素反応を紹介していただいた。研究室にはあらゆるフロー合成装置が揃えられており、反応のセットアップ(現場の話)を聞いたり、自分の実施したいフロー反応の装置に関する相談ができたことは、有り難かった。Serpi講師には核酸プロドラッグについて、Pertusati講師には糖誘導体の合成について紹介していただいた。Rhys講師は、若くして研究室を主催しており、立ち上げ当時の話を聞くことができた。1日目のアドバイスを意識し講演したところ、学生から「よかった」と感想をいただき、ほっと胸を撫で下ろした。その学生にはCardiff大学の最新の研究棟を案内していただき、あまりの設備の立派さに始終驚きっぱなしであった。実験室の仕切りがなく、「コミニュケーションが取りやすくていいですね」と感想を述べたところ「ただし、ものがどこにあるのか分からなくなったりもする」とのことで、一長一短であるなと感じた。大学が多大なコストをかけて建てたので、これからコストを回収しなければいけないとのことであった。ランチは、Wirth教授とRhys講師とパブでイギリス料理を、ディナーは、Wirth教授とPhDの学生2名と一緒にフランス料理をご馳走になった。
Bath 大学は、緑に囲まれた美しい大学であり、山に立地している点に親近感を感じた。Wirth教授から紹介いただいたMorrill博士とCoote博士は、今回の講演ツアーで唯一初対面のホストであった。お会いする前は少し緊張したが、彼らには親切にしていただき、講演前にリラックスして望むことができた。午前中はMorrill博士に、大学を案内いただきBath大学の研究室体制などについて紹介いただいた。独立したての若手研究者が多く、教員と学生の距離感、ラボ同士教員同士の距離感が大変近いように見えた。午後は、Pantos 博士にはDNAの高次構造変化を引き起こすヘリセンについて、Coote博士にはユニークな小員環化合物の合成/転位反応について紹介していただいた。Lewis教授には、酵素反応を組み込んだ美しい全合成を説明していただき、共通の共同研究者の話で盛り上がった。Cresswell博士には、光反応による含窒素ヘテロ環合成について紹介いただいた。講演は3回目で少々慣れてきたこともあり、質問もたくさんいただいた。前の2大学と比べ、質問点が日本の有機化学者に近しいと感じた。ランチはMorrill博士とLewis博士とAIやイギリスの研究事情、教育について雑談しながら、広い吹き抜けの美しい学食でいただいた。ディナーは、Coote博士とCresswell博士にタイ料理をご馳走になった。教員同士の気さくな会であったので、学生や研究費の獲得に関する切実な話も聞くことができた。
インド工科大学ルールキー校(IITR)は、インドで最古の技術教育機関でありヒマラヤ山脈から流れるガンジス川の上流付近に位置する。その水力を利用できると目論んだイギリス人によって100年以上前に設立されたとお聞きした。ホストのSadhu教授は、私が留学中にWinssinger教授の紹介で知り合った方であり、今回、入国ビザの取得手続きなど本当にお世話になった。IITRが、他の大学と大きく違うところは、大学内に衣食住全てのものがあることである。学生も教員も大学敷地内で生活しており、食堂はもちろんのこと病院や寺、リキシャ(タクシーのようなもの)も敷地内に全てあるというのだから、大変驚いた。「敷地内ではwifi環境も治安もよい」とのことで皆快適に過ごしているようであった。講演前日はSadhu研の学生とのディスカッション、講演当日は、飛び入り参加も含む7名の教員とのディスカッション+教員陣とのミーティングということで非常に濃い1日であった。Mohanty教授からはインドの試薬事情(自国生産の試薬会社が欲しい)をお聞きし、エネルギッシュなDongari助教からは多様なカルベン発生法について紹介していただいた。Banerjee教授には超原子価ヨウ素試薬を用いたアミド化反応について、Sadhu教授には金ナノパーティクルを用いた分子検出法について紹介していただいた。Chatterjee助教は1年のうち数ヶ月の間ドイツで研究されているらしく、こうしたスタイルを取るPIが他にもおり、やや驚いた。なんとかなるらしい。講演は17時から開始し、たくさんの先生方に聴講していただけた。講演時間に合わせてスライドを増やしたはずが、発表時間は調整前とほぼ同じになってしまい、時間調整の難しさを感じた。講演後に、自身の研究に絡めて質問する学生もおり、研究に対する必死さが伝わってきた。ディナー(1日目)は、Sadhu教授とSadhu研の学生達とともに、ベジタリアンー非ベジタリアンに挟まれながらインド料理をご馳走になった。ランチは学生と共にカレーを食べ、ディナー(2日目)はディスカッションした教員陣にインド料理をご馳走になった。インドから日本に留学する学生は一定数いるため、彼らの背景を知ることができてとてもよかったように思う。

本講演ツアーでは、経験豊富な教授陣をはじめとして、独立したポジションで働く若い先生方20名弱とディスカッションする機会をいただいた。この経験は、単なる楽しさだけでなく「彼らと比べた時、自分の仕事ぶりや研究力はどうなのか?」という問いを私の胸に刻み込んでくれた。また、様々なタイプの研究運営術(研究費事情、学生指導、自分が手を動かすか否か、ポスドクの選び方等)、キャリアの築き方を見聞きできたことも、勉強になった。“私的日本人推し研究者!”について熱く語る先生も多く、日本人研究者の影響力を異国の地で感じた。

最後に、本申請を採択頂きました九州大学 領域代表 大嶋孝志先生、本レクチャーシップ担当の早稲田大学 山口潤一郎先生に心より感謝いたします。また、諸々の手続きで大変お世話になりました大嶋研究室秘書の有村慎子様に厚く御礼申し上げます。

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