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【レクチャーシップアワード2023】北米カナダの4つの大学で講演してー近藤健

この度、第一回デジタル有機合成レクチャーシップアワードを受賞し、北米カナダの4つの大学[2023年10月17日University of Toronto (Host Prof. Mark Lautens)/2023年10月19日Queen’s University (Host Prof. Cathleen Crudden)/2023年10月20日University of Montreal (Host Prof. André Charette)/2023年10月23日UBC (Host Prof. Jason Hein)]にて講演する機会に恵まれた。

カナダは、2015年にToronto大学のLautens研究室に訪問学生として数カ月滞在したことがある。人生初の海外渡航であり、当時は英語も拙く、入国審査も手間取り、関係者に多大な迷惑をかけた。8年の歳月を経て、自身の成長を振り返る良い機会とも考え、本受賞の報告と訪問について恩師Lautens教授に相談したところ、カナダで現在精力的に研究を展開している上述の研究者をコンタクトパーソンとして紹介いただいた。各大学の先生方に照会したところ本受賞講演を受け入れていただけるという返事を頂き、恩師Lautens教授には改めて感謝申し上げたい。

最初の訪問先はToronto大学であり、ホストは遷移金属触媒反応の第一人者Lautens教授である。研究室は8年前とほぼ変わっておらず、自身が使っていた実験室やドラフトを見て、懐かしさのあまり感情が高ぶる。残念ながらLautens教授は学務のため講演には参加できなかったものの、Mark Taylor教授座長のもと1回目の受賞講演を迎えた。現在、Toronto大学はAI研究に注力しており(化学研究棟横にAI研究棟を建設中、2026年完成予定)、講演内容にも興味を持ってくれる人が多かった。当日は、Andrei Yudin教授、Mark Taylor教授、Sophie Rousseaux助教、Yang Cao博士と時間を忘れてディスカッションした。特にCao博士の所属するAlán Aspuru-Guzik研究室は自動化研究を推進しており、ロボットアームなども導入されていた。海外研究機関とのAIネットワーク構築も積極的であり、デジタル有機合成が目指す方向性の1つと感じた。講演後は、Lautens教授と夕食を共にし、昔話に花を咲かせた。

第二の訪問先はQueen’s大学であり、VIA Rail(大陸横断特急)に乗ってトロントからキングストンまで移動した。トロントからは電車で1時間ほどの距離である。Queen’s大学のホストは、親日家で遷移金属触媒反応の開発で著名なCrudden 教授(名古屋大学教授兼任)である。講演前日はFarnaz Heidar-Zadeh助教と計算化学・機械学習の話を肴に夕食を取り、その後は大学宿舎(高速Wi-Fiが使え論文がサクサク読める!朝食ビュッフェも絶品!!)にて休息した。受賞講演は午前中に行われ、講演会場が大きすぎてレーザーポインタがうまく使えない、質問者の声が聞き取りにくいなどのトラブルも、Crudden教授のサポートで無事終えることができた。昼食は物理学者のJean Michel Nunzi教授と共にし、物理と化学との融合や、彼の研究哲学に感銘を受けた。ホモキラリティーの話題でも盛り上がり、近々来日の際に日本でお会いすることになった。他にもAmanda Bongers助教、Tucker Carrington教授、Graeme Howe助教ともディスカッションする機会をいただき、様々な分野の話を聞くことができた。Queen’s大学は研究室ごとに区画が分かれているのではなく、教授室(居室)ゾーンと実験室ゾーンに分かれており、教授同士がディスカッションしやすい環境であった(後述のMontreal大学も同様)。大学を離れる際、Crudden 教授に車で駅まで送っていただき、キングストンから次の訪問地であるモントリオールにはVIA Railで移動した。

第三の訪問先はMontreal大学であり、ホストは不斉シクロプロパン化で有名なAndré Charette教授である。Montreal大学の化学科は3年前に新築されたばかりで圧巻の最新鋭設備であった。また、フランス語が第一言語であるためか、丁寧な英語で聞き取りやすかった。Shawn Collins教授、William Lubell教授とディスカッションを行い、その後に講演が行われた。フロー反応や機械学習に興味のある研究者・学生が多く、質疑応答も活発であった。講演後Charette教授とHélène Lebel Bower助教と昼食、ベイズ最適化やMontreal大学の話で盛り上がった。昼食後はSteve Hanessian教授やSamy Cecioni助教、Bower助教、Charette教授と個別にディスカッションを行った。Montreal大学は、研究はもちろん個性的(キャラ立ち)な教員も在籍しており楽しかった。次の日はモントリオールからバンクーバーまで飛行機で移動し、3時間の時差を感じながら最後の講演先のブリティッシュコロンビア大学(UBC)に移動した。

UBCはキャンパスが大きく、大学が一つの町になっている。UBCのホストは若手のホープJason Hein准教授だったが、当日に酷い風邪を患ったらしく、お会いすることはできなかった。代わりにJoshua Derasp博士に講演の座長や研究室見学を担当いただいた。講演は4回目ということもあり、大分余裕をもって発表ができた。講演後はHein研究室の学生と昼食を共にし、Hein研究室の設備を見学した。合成等の自動化に力を入れており、各所に自作装置やなかなかお目にかかれない設備が見られた。機械学習と化学の融合研究を行っているJolene Reid助教とTao Huan助教とディスカッションを行う機会にも恵まれた。Reid助教は不斉触媒のcatalyst generalityの予測、Huan助教はベイズ最適化による液体クロマトグラフィーの分離性能向上を行っており有意義な討論であった。

今回の講演を終え、8年の月日と自身の成長も感じつつ、やはりカナダは移住したいと思うような素敵な国だと再認識した(実はMontreal大学以外のスケジュールが決まったのは、各講演の1~2日前であり、こういった大らかなカナダが私は好きだ)。次に行く機会までには、さらに研究を発展させ語学力を磨いておきたい。
最後に、本申請を採択頂きました九州大学 領域代表 大嶋孝志先生、本レクチャーシップ担当の早稲田大学 山口潤一郎先生に心より感謝いたします。また、諸々の手続きで大変お世話になりました大嶋研究室秘書の有村慎子様に厚く御礼申し上げます。
(静岡県立大学・助教 A02班 滝澤G 近藤健)

 

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