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【レクチャーシップアワード2025】スペイン・ドイツ・スイスでの講演ツアー ー清川謙介

今回の講演ツアーでは、主に超原子価ヨウ素を活用する合成化学の第一線で活躍する研究者を訪ね、スペイン、ドイツ、スイスの3カ国を巡った。訪問先は、スペインのICIQ(Marcos G. Suero教授)、ドイツのミュンスター大学(Ryan Gilmour教授)、スイスのETH Zürich(Bill Morandi教授)であり、いずれも世界屈指の研究環境を誇る拠点である。Gilmour研、Morandi研は、以前学生が留学でお世話になっていたという縁もあり、今回の訪問先を決めた。
講演題目は「Synthesis of Hypervalent Iodine Reagents Containing Nitrogen Functional Groups and Their Use in Amination Reactions」とし、これまで推進してきた超原子価ヨウ素化学に関する研究成果をまとめて紹介した。国際学会での講演経験はあるものの、レクチャーシップは今回が初めてであり、緊張と高揚の入り混じった気持ちで、冬のヨーロッパへと向かった。

最初の訪問先は、スペイン・タラゴナにあるICIQである(初スペイン!)。2026年1月25日の午前にバルセロナに到着し、少し市街地を散策した後、バスでタラゴナへ向かった。夕刻に到着した後、現在ICIQのセミナーマネージャーを務めているLuis Escobar博士と、Suero研のポスドクのMatteoがホテルまで迎えに来てくれ、そのまま夕食へ向かった。旧市街中心部のレストランで、ハモンやパエリア、ワインなど本場のスペイン料理を楽しみながら、研究の話だけでなく、タラゴナでの生活やおすすめのレストランの話などで盛り上がった。
翌朝、Luisに迎えに来てもらい、ICIQへ向かった。まずArjan W. Kleij教授と、CO2を活用する有機合成とその有用性についての議論からスタートした。その後、LuisによるICIQの研究施設ツアーでは、充実した設備と整った研究体制が強く印象に残り、共同研究が生まれやすい環境であることを実感した。続いて、Marcos G. Suero教授とはコーヒーを飲みながら、超原子価ヨウ素を活用したさまざまな炭素骨格変換について議論した。続いて、Jordi Burés教授からは、反応機構解析に基づく反応の効率化について話を伺い、そのアプローチの見事さに大いに刺激を受けた。正午からはいよいよ講演である。近年の超原子価ヨウ素の化学を発展させた一人である、故Kilian Muñiz教授の名を冠した会場で講演できたことは、個人的にも非常に感慨深かった。ツアー最初の講演ということもあり緊張感はあったが、無事に講演を終え、多くの質問もいただくことができた。講演後は、Luis、Marcos、Jordiと遅めのランチ(まさにスペインスタイル)をご一緒し、2種類のパエリアをはじめとするスペイン料理を堪能した。夕方には再びICIQに戻り、Ruben Martin教授にニッケル触媒を用いたさまざまなカップリング反応について紹介いただいた。講演内容がとても面白かったと言っていただき、その内容についてさらに意見交換できたことは大変嬉しかった。最後にSuero研のポスドクであるDebasisとも議論を行い、ICIQでの濃密な一日を終えた。夜はタラゴナの街を少し散策し、軽めの夕食をとって翌日の移動に備えた。

翌日は早朝にタラゴナを出発し、バルセロナからフライトでフランクフルトへ、さらに鉄道でミュンスターへと向かった。長距離移動であったが、最大の懸念であったドイツ鉄道の遅延も20分程度で、夜には無事ミュンスターに到着した。スーパーで買ったビールをホテルの部屋で飲みながら、翌日の訪問に備えてゆっくり休んだ。
翌朝はRyan Gilmour教授がホテルまで迎えに来てくださった。雨模様であったが、思っていたよりも暖かく、ほっとしたのを覚えている。IRTG(日独共同大学院プログラム)でオフィスを用意していただいた。まずRyanに、超原子価ヨウ素を利用した含フッ素化合物の合成から、最近力を入れている光エネルギー移動を用いた変換反応まで、幅広く紹介いただいた。その研究の広がりとアクティビティには強く感銘を受けた。その後、Gilmour研のTimo、Barbaraと議論を重ね、学内の食堂でIRTGの学生たちと昼食をとった。すでに日本に滞在した経験のある学生と、これから日本へ行く予定の学生がおり、自然と日本の話題で盛り上がった。午後は、IRTGプログラムで名古屋大学に滞在中のStuder研のNicoとオンラインで議論するという、少し不思議なスタートであった。その後、大阪大学薬学研究科出身で、現在Glorius研のポスドクである阪さんとお会いすることができた。さらに、Olga Garcia Mancheño教授(カルコゲン触媒を活用する不斉合成への取り組み)、Gilmour研のChristoph(超原子価ヨウ素を活用するフッ素化の研究)、Frank Glorius教授(これからの化学の発展に関する研究理念を含めた壮大な話)、そしてRobert Heinジュニア教授(昨年6月に大阪大学を訪問されており、半年ぶりの再会。分子認識を活用する分子マシンの話)らと、非常にレベルの高い議論が続いた。講演前にはRyan、Olga、Robertとコーヒーブレイクを取り、そのまま講演会場へ移動した。ツアー2回目の講演ということもあり、少し落ち着いて発表することができた。関連分野の研究者が多く参加しており、鋭い質問が相次いだ。その後は市内のレストランへ移動し、Ryan、Olga、Robertに加え、翌日の訪問者であるフランス・リヨン大学のJérémy Merad准教授も交えて夕食を楽しんだ。ドイツ料理と地元のビールに加え、Ryanのすすめでラガーコルンも味わった。外は雪が舞っており、とても寒かったが、印象に残る夜となった。Ryanにホテルまで送っていただき、再訪を約束して別れた。

翌朝、再び鉄道でフランクフルトへ向かい(ここでも約20分の遅延)、そこからチューリッヒへフライトで移動した。市内のホテルにチェックイン後、少し街を散策し、その後ホテルに戻って翌日のETH訪問に備えた。Bill Morandi教授に訪問の相談をした際、訪問時は試験期間と重なっており、あまり人と会えないかもしれないと言われていたが、やや無理をお願いして訪問させていただいた。当日は、Morandi研のポスドクや学生とのランチからスタートした。ETH構内のレストランでの昼食は、参加した7人全員が異なる国籍という非常に国際色豊かな場となり、ラボでの過ごし方やチューリッヒでの生活などの話題で盛り上がった。昼食後はFlorianにMorandi研究室を案内してもらい、そのままディスカッションへと続いた。最近JACS誌に報告された、超原子価ヨウ素とアンモニアを用いた反応の機構研究について、紆余曲折も含めて直接話を聞くことができ、大変印象に残った。その最中に、授業(試験)を終えたBillが合流し、オフィスに移動して、最近のホットトピックである窒素原子挿入による炭素骨格編集に関する数々の成果を紹介していただいた。時折、立ち上がりながら楽しそうに研究を語る姿がとても印象的であった。その後、今回のツアー最後となる講演を行い、学生からも多くの鋭い質問をいただき、無事に締めくくることができた。講演後はBillと近くのレストランで夕食をともにし、スイス料理を堪能した。研究関連の話だけでなく、家族の話なども交えながら、ゆっくりと交流できた。今回のETH訪問ではMorandi研のメンバーとの交流に集中できたこともあり、一つ一つの時間がとても濃いものとなった。翌日は夕方のフライトまで時間があったため、近郊の街を少し散策し、その後チューリッヒ空港から帰国の途についた。

今回の3カ国講演ツアーで、世界有数の研究機関を実際に訪問し、直接議論し、食事を共にしながら交流を深めることができたことは、何にも代えがたい経験であった。また、自身の研究を多くの研究者に知っていただく貴重な機会にもなった。
最後に、本講演ツアーを受け入れてくださった各大学・研究機関のホストの先生方に心より感謝申し上げます。また、訪問先の相談にのっていただき、快く送り出してくださった南方聖司先生に深く御礼申し上げます。さらに、本講演旅行は共同研究に携わる学生の尽力に支えられて実現したものであり、心より感謝いたします。加えて、採択の機会を賜りました九州大学 領域代表 大嶋孝志先生、レクチャーシップ担当の早稲田大学 山口潤一郎先生、ならびに事務手続きをご支援いただいた大嶋研究室秘書 有村慎子様に厚く御礼申し上げます。

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