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【レクチャーシップアワード2024】中国の3つの大学・研究所で講演してー岩﨑孝紀

次回のレクチャーシップアワードには必ず申請しよう。
第1回のレクチャーシップアワードは訪問先の選定と内諾交渉を事前にする必要があるハードルの高さと、忙しさにかまけて申請しなかったところ、某先生にお叱りを受けて心に決めたことである。
とはいえ、海外でのポスドク経験もなく行き先の当てはなかったので、次回のレクチャーシップアワードの募集に向けて訪問先を模索することとなった。現所属にはビックネームの教授陣がいることから海外からのゲストには事欠かないことは幸いであった。
最終的に北京大学(ホスト:ZHU, Rong, 12月16日)、上海交通大学(ホスト:ZHANG, Shaodong, ZHANG, Wanbin, 12月18日)、上海有機化学研究所(ホスト:WANG, Xiaoming, 12月19日)への訪問の内諾を得て申請し、無事第2回レクチャーシップアワードに採択していただいた。
講演は「Chemoselectivity Change in Catalytic Transformations–Cleavage of Less Reactive Chemical Bonds–」の演題で大阪大学時代のアート型錯体による炭素―フッ素結合やエーテルの炭素―酸素結合の切断を伴う結合形成反応から始め、最近取り組んでいる触媒機能を有するアニオンの化学へとつながる第1パートと、低反応性のカルボニル化合物であるウレタン、ウレアの化学選択的水素化分解と高分子分解への応用に関する第2パートの二部構成とした。
北京には前日入りした。空港までホストであるRongが車で迎えに来てくれた。中国では電子決済の導入が進んでおり、外国人にとって電子決済への対応が大変と聞いていたが、空港の駐車場から出るのにRongの電子決済が上手くいかず立ち往生するなど、電子決済一辺倒なシステムは中国人にとっても完璧なシステムではないのだな、と感じた。ただ、中国滞在中買い物から地下鉄、ホテルでの洗濯まで決済や機械の操作のほとんどがスマホで完結しトラブルも2回程度であった。
北京大学のゲストハウス(といっても会議室などを備える大規模なホテルなみの豪華な施設)に到着後、Ph.D.コースのWANG, Ziyuanの案内で北京中心街の故宮周辺を散策した。故宮博物院の入場券を事前に予約してくれていたが、渋滞で間に合わず。代わりに天安門を見たいとリクエストしたところセキュリティーのためなかなか近づけず、紆余曲折の末なんとか遠くから写真を撮ることに成功した。夕食は前門大街で火鍋を食べた。Ziyuanとはモビリティーの話で盛り上がった。中国では電気自動車や電動バイク(電動のものは免許不要とのこと)が急速に普及しており、一時期問題視されていた冬季の空気汚染は嘘のように夜空には美しい満月が輝いていた。
翌日は午後から4件のディスカッションと講演が予定されていた。北京大学には海外のビックグループでポスドクを経験した研究者が多く、ポスドクで得たスキルを如何にオリジナルな研究に繋げるかを強く意識していることが印象的であった。特に印象に残ったのはXU, Yanとのディスカッションである。YanはシカゴのDong研からGrubbs研を渡り歩き最近北京大学で独立した新進気鋭の研究者である。ポスドクの研究から如何に離れて新しい研究展開を行うか、を真剣に考え研究を進めている姿勢が窺えた。昨年Natureに報告した位置選択的C–H官能基化反応について最近の進捗も含めて熱っぽく語ってくれた。荒削りながら今後の発展が大いに期待される研究成果であった。Yanとの議論が盛り上がり、講演開始時間直前に会場に滑り込み講演を行った。

Rongは高分子合成が専門であるが、研究室内を案内してくれた際、1部屋を自動合成のセットアップのために使用していることが印象的であった。
夕食はディスカッションを対応してくれた先生を含めてRongが北京料理を振る舞ってくれた。白酒の乾杯を繰り返しながら舌鼓をうった。話題は研究設備や研究費の話から最近の学生の気質など多岐に渡った。
翌日は、北京から上海への移動日。8:30にホテルでRongと落ち合い感謝と近い将来の再会を誓ってタクシーへと乗り込み研究室のミーティングにオンラインで参加した。オンラインミーティングの普及の恩恵を感じると同時に少しばかりの疑問を抱きつつ空港でも引き続きオンラインミーティングに参加しながら飛行機の時間を待った。上海に到着後Shaodong研のポスドクLI, Chenfeiが空港まで迎えに来てくれ、ホテルまで送迎してくれた。おそらく上海の夜景と聞いて皆が思い浮かべるタワーが見渡せる河岸まで徒歩数分の観光地のど真ん中のホテルを拠点に周辺を散策して1日が終了した。
翌日は上海交通大学までタクシーで移動し、Shaodongと再会した。Shaodongは高分子化学が専門ということで、より専門分野の近いWanbin研がディスカッションのセッティングをしてくれたおかげで、有機化学・有機金属化学の研究者とのディスカッションが4件予定されていた。
講演前にWanbinと話す機会を得た。Wanbinは大阪大学工学部の池田研で学位を取得し、助手を務めた経験がある親日家である。日本語も達者で、日本の有機金属化学分野の研究者の話題で盛り上がった。
最後に講演を行った。野崎研にポスドクとして以前在籍していたTANG, Shanも他のキャンパスから駆けつけてくれており、久々の再会を喜んだ。

講演後、Wanbinが夕食会を企画してくれた。夕食後白酒を飲んで車を置いて行かざるを得なくなったShanとタクシーで次の目的地である上海有機化学研究所(SIOC)近くのホテルへと移動した。
翌朝はホストであるXiaomingとの待ち合わせまで時間があったことからSICOを含む区画を散歩がてら一周した。SIOCの周りには復旦大学の附属病院や医科系キャンパスが点在していた。附属中山医院は超高級ホテルと見紛うような立派な建物であった。
10時からの講演前に1件、講演後に5件さらに翌朝に1件のディスカッションを設定してくれていた。SIOCは歴史的にフッ素化学が盛んな研究所であり、フッ素化学の最近の研究動向をディスカッションすることができた。印象的だったのはXUE, Xiao-Songとのディスカッションである。彼はデータサイエンスをもとに含フッ素反応剤を開発している若手研究者であり、FluoBase(https://fluobase.siochemdb.com/)というフッ素化試薬に特化し、フッ素化試薬の反応性スケールやデータサイエンスを利用した19F NMRのケミカルシフトの予測を提供するデータベースを運用している。また、新たな反応剤開発にも取り組んでおりジアゾトランスファー試薬やラジカル的脱フッ素化試薬を開発している。ジアゾトランスファー試薬の開発の裏話は大変興味深く、2021年にSIOCで独立した際に与えられたオフィースが元々Barry Sharplessが使っていた部屋で、壁にSharplessが報告したジアゾトランスファー試薬の分子構造が貼られていたらしく、そこから着想を得たとのことである。また、Xiao-Songのデスクや本棚はSharplessが使用していた時のものをそのまま使っているとのことであった。
講演は流石に3回目ともなると慣れたものであり、そつ無くこなせた。

翌日は前日予定が合わなかったDENG, Liangと早朝からディスカッションをする機会を得た。Liangは低酸化数・低配位数の金属錯体の開発と触媒応用を行なっており、彼が開発した鉄錯体は近年高反応性の触媒として多くの研究者が利用していることでも有名である。特に3d金属に焦点を当てて錯体の開発秘話から最近の窒素固定への展開について説明してくれた。

Liangとのディスカッションの後に上海虹橋国際空港に移動し、帰国の途についた。

今回のレクチャーシップアワードで近い世代の研究者との多くの出会いがあった。また、ディスカッションを通じで彼らの高い能力と最先端で世界と勝負するという強い気概が感じられ大いに刺激になった。

最後に、本申請を採択頂きました九州大学 領域代表 大嶋孝志先生、本レクチャーシップ担当の早稲田大学 山口潤一郎先生に心より感謝いたします。また、事務手続きで大変お世話になった大嶋研究室秘書の有村慎子様に厚く御礼申し上げます。

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