このたび、「学術変革研究A:デジタル化による高度精密有機合成の新展開」の最終年度におけるレクチャーシップアワードに申請し、幸いにも採択していただいた。ここに、関係者の皆様に深く感謝申し上げる。今回の訪問は、以前より私と面識のあったDr. Poonsakdi Ploypradith(チュラボーン研究所/チュラボーン大学院大学)にご調整いただき、同研究所とカセサート大学(Assoc. Prof. Pitak Chuawong)、マヒドン大学(ホスト: Prof. Chutima Kuhakarn)で講演を行った。
講演タイトルは「Carbene-mediated reactions driven by theoretical studies」である。2013年に千葉大学に着任して以来、一貫して取り組んできたカルベン化学の研究成果を総括的に紹介した。今回の講演では、これまでの集大成となる内容に加え、デジタル有機合成のご支援をいただいていることから、さまざまな理論解析についても発表を行った。筆者は海外講演の経験がほとんどなかったため、2か月前からしっかりと準備して、万全の状態で発表に臨んだ。訪問先が東南アジアのバンコクであることから、酷暑を避けるため訪問日程は2025年11月30日から12月5日とした。
最初に訪問したのは、カセサート大学。筆者の滞在しているMiracle Grand Convention Hotel in BangkokにAssoc. Prof. Pitak Chuawongが車でお迎えしてくれた。カセサート大学に到着すると、まずディスカッション等の前に筆者の講演からスタートした。発表の際、発表者も着座し、遠方にあるディスプレイを操作して発表するスタイルであった。自身で作成したスライドも遠方から見ると、文字や図が小さい部分があり、今後の発表資料作成の参考となった。また、聴講者の大学院生から鋭い質問を受け、大変勉強になった。昼食では興味深いレストラン(Khrua Chuan Chom Restaurant、写真右下)で食事をとった。そのレストランに近接するクロンプレム刑務所の収容者も監視員とともに昼食にくるらしい。実際にそのような様子も見られたが、Assoc. Prof. Pitak Chuawongによれば特に問題はないとのことであった。また、筆者が自己紹介でアイスクリームが好きであると述べたことを覚えていてくださり、急遽、昼食後におすすめのアイスクリーム店に連れて行っていただいた。その後、大学内のキャンパスツアーを行った。総合大学であるためキャンパスが広く、車でさまざまな施設をご紹介いただいた。各研究室の案内は、所属学生に行っていただいた。修士課程の学生にも修了要件として在学中に学術論文を発表する必要があるとのことであった。研究科長も交えて夕食をとり、千葉大学とも学生交流を積極的に進めていきたいとのご意向を伺った。

翌日はチュラボーン研究所/チュラボーン大学院大学を訪問した。同研究所は、日本でいう理化学研究所のような研究機関であり、学部組織を持たない。他大学から大学院生は受け入れており、リサーチアシスタント等を雇用している機関である。それゆえ、少数精鋭というイメージを受けた。筆者と古くからの友人であり、ほぼ同世代のDr. Satapanawat Sittihanらともお会いした。そこでは、教員またはresearcher自らが一人で実験から論文執筆まで行う例があり、筆者も大変良い刺激をいただいた。午前中は学生らとディスカッションを行い、千葉大学に滞在していたPisit Nithijarasrawee氏と展望や将来の計画などを話し合った。このようにCRI/CGIが唯一、筆者の知人がいる訪問先であったため、大変リラックスした雰囲気でディスカッションを行うことができた。昼食は、ご多忙の中、学長のProf. Somsak Ruchirawatも加わり、高級中華料理をいただいた。午後からは筆者の講演を行い、特に理論計算・解析の部分に興味を持っていただいた。質問もそれに関することが多く、研究内容というよりは、どのようにその計算化学技術を習得し、学生を指導しているのかといった質問があった。同研究所も積極的に新しい技術を導入しようとしており、豊富な資金力も加わって、レベルの高い研究が大きく展開されると思われる。夕食はDr. Poonsakdi Ploypradithらと素晴らしいビュッフェ形式の食事をいただき、スパイシーなタイ民族料理を堪能した。

最後の講演日程として、マヒドン大学を訪問した。Prof. Chutima Kuhakarnに車でお迎えいただいたが、朝は道路が大変混雑しており、夕方の1. 5倍の時間を要したとのことであった。マヒドン大学は、非常に自然豊かで広大なキャンパスを有する大学であった。午前中に筆者の講演を行った。試験シーズンであるため参加者は多くはなかったが、有意義なディスカッションができた。講演会終了後にも多くの質問をいただき、特にベイズ最適化の部分に興味を持っていただいた。どのように実施しているかを詳しく尋ねられ、最終的にはPythonのプログラミングコードを表示しながら議論を行った。興味を持っていただいた先生からは、より詳しく教えてほしいのでメールで具体的に質問してもよいかといったお話もいただいた。昼食会では、さまざまな先生方とお話しする機会を得た。親日家の方が多く、筆者が話した限りでは、ほとんどの方が日本を訪問しており、毎年訪れている先生もいらっしゃった。また、タイでは主に分析化学の人気が上昇しており、就職先もしっかりあるとの話を伺った。

上記の写真の通り、筆者が訪問した期間、タイは服喪期間中であり、服装については黒または白、あるいは地味で落ち着いた色の服が推奨されていた。そのような状況下においても、温かく筆者を受け入れてくださったDr. Poonsakdi Ploypradith、Assoc. Prof. Pitak Chuawong、Prof. Chutima Kuhakarnならびに関係の先生方、ご案内いただいた学生の皆様に改めて感謝申し上げる。本講演でご紹介した成果は、千葉大学薬化学研究室の学生らの不断の努力によって得られたものであり、ここに併せて感謝の意を表する。また、筆者の提案を採択していただき、経済的にご支援いただいた領域代表の大嶋孝志先生、レクチャーシップ担当の山口潤一郎先生、事務手続きをご支援いただいた有村慎子様に深く感謝する。