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原田(A01)グループの研究成果「⾦属触媒・酵素触媒の⼒で⽣物活性分⼦群の⾻格を不⻫合成 」がプレスリリースされました

⾦属触媒・酵素触媒の⼒で⽣物活性分⼦群の⾻格を不⻫合成
―新たな⼿法の開発により創薬シーズ創出へ前進―

千葉⼤学医学薬学府博⼠後期課程3年⽣ 橋本佳典⽒、⼤学院薬学研究院 原⽥慎吾講師及び根本哲宏教授の研究グループは、⾦属元素を含む触媒と酵素触媒を駆使することで、薬理効果を⽰す多くの天然有機化合物に含まれるアザビシクロ[3.3.1]ノナン環を有する縮環インドール⾻格の触媒的な不⻫合成法を開発することに成功しました。本研究成果により、薬⽤植物などに含まれる薬理活性分⼦群を⼈⼯的に合成できるため、多様な分⼦⾻格ライブラリーの構築が可能となり、迅速な創薬シーズ創出が期待できます。
この研究成果は、本邦とドイツ連邦共和国Bielefeld ⼤学Harald Gröger 研究室との国際共著論 ⽂として、2022 年11 ⽉28 ⽇に”ACS Catalysis”に掲載されました。

■ 研究の背景

アザビシクロ [3.3.1]ノナン⾻格(図1、⾚⾊部分)は、抗がん作⽤をはじめとする、多くの薬理効果を⽰す天然有機化合物や医薬有効成分に含まれる重要な分⼦構造です。また、この部分にインドール環が結合した天然有機化合物も同様にさまざまな薬理効果を⽰すことから、創薬シーズとして注⽬を集めています。しかし、植物からの抽出⽅法が報告されたにもかかわらず、供給量が少ないせいか薬理効果の検証が⼗分に⾏われていない天然有機化合物も数多くあるため、インドール縮環型アザビシクロ[3.3.1]⾻格を効率的に構築する新たな⼿法の開発は重要です。
これらの天然有機化合物はこれまで、特定の化合物の合成のみを⽬的とした「標的指向型合成法」で作られてきました。しかし、図1にも⽰すように、天然有機化合物のインドール部位の置換パターンは様々であることから、1つの合成法で天然有機化合物を網羅的に合成することは困難でした。

■ 研究成果1- ⾦属触媒注4)による対称化合物の合成と酵素触媒注5)による対称性の崩壊

同研究グループは、分⼦内にジアゾ基(C=N2)を有する化合物に対し、安価で毒性の低い Cu(銅)触媒を作⽤させることで、対称構造を有するアザビシクロ[3.3.1]ノナン⾻格を構築しました(図2)。その後、酵素触媒を⽤いた加⽔分解反応の検討を⾏いました。反応系中に pH の変化を⾊の変化として⽬で⾒ることができるBTB試薬を⼊れることで、反応の進⾏を可視化しました。60 種類を超える酵素触媒を効率的に検討した結果、反応を促進できる触媒を特定できました。さらに検討を続けた結果、それらの酵素触媒は、有機触媒では困難だった⾼い⽴体選択性を発現可能であることがわかり、⽬的のキラル注 6)化合物を得ることに成功しました。

■ 研究成果2- 多様性指向型の変換

同研究グループは、合成した化合物を更に変換することで、天然有機化合物の合成経路における中間体へと導き、20 種類を超える天然有機化合物の合成が可能となりました(図3)。本⼿法は、合成経路終盤にインドール部位を導⼊できることから、様々な天然有機化合物の合成への応⽤が期待できます。効率良く様々な縮環インドール類を含む化合物ライブラリーの構築が可能なことから、合成化学のみならず創薬科学に対する波及効果も期待でき、迅速な創薬シーズ創出への貢献が予想されます。

■ 研究者のコメント(千葉⼤学⼤学院薬学研究院 原⽥慎吾 講師)

今回の研究によって、天然有機化合物の新しい触媒的不⻫合成法が開発されたことに加え、反応の進⾏を可視化できる実⽤的な⼿法を公表することができました。本法を⽤いることで、⼤掛かりな機器を使うことなく、迅速で網羅的な触媒の検討を実施することができます。従来法と⽐較すると使い⽅により⼗倍以上⾼速で、有望な活性を有する触媒を選抜することが可能となります。またこの研究プロジェクトは、千葉⼤学国際交流事業の「若⼿教職員・研究者の海外渡航⽀援プログラム」の⽀援を受け、Gröger 研究室とのスタッフ・学⽣の交換留学が始まり、国際共同研究へと発展することで実現しました。

■ 論⽂情報

論⽂タイトル:Merging Chemo- and Biocatalysis to Facilitate Syntheses of Complex Natural Products: Enantioselective Construction of N-Bridged [3.3.1] Ring System in Indole Terpenoids
著者:Yoshinori Hashimoto, Shingo Harada, Ryosuke Kato, Kotaro Ikeda, Jannis Nonnhoff, Harald Gröger, Tetsuhiro Nemoto
雑誌名:ACS Catalysis
DOIhttps://doi.org/10.1021/acscatal.2c04076

■ ⽤語解説

注1)インドール⾻格:ベンゼンとピロール(五員環構造を持つ窒素原⼦を含む芳⾹族化合物)が縮合した化学構造。
注 2)不⻫合成法:ある化合物の三次元化学構造と、それを鏡写しにした三次元化学構造を作り分ける⽅法。
注 3)分⼦⾻格ライブラリー:様々な分⼦⾻格を持つ化学物質のコレクション。創薬研究において、網羅的な⽣物活性の評価が可能となることから創薬シーズの探索に有効となる。
注 4)⾦属触媒:⾃⾝は変化しないが化学反応を促進する機能(活性化エネルギーを下げる作⽤)を持ち、⾦属元素を含む物質のこと。⼀般に⾼い活性を有するものが多い。
注 5)酵素触媒:⾃⾝は変化しないが化学反応を促進する機能を持ち、⽣物により作り出される物質のこと。⼀般に活性が低いものが多いが、反応が進⾏すれば⾼い⽴体選択性を発現することがある。
注 6)キラル:左右の⼿のように、鏡像関係にあって重ね合わせることのできない物質の性質。

詳細はこちら:千葉大学プレスリリース

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